食品微生物講座

東京家政大学家政学部 藤井 建夫 特任教授

第3回 腐敗と発酵、腐敗と食中毒はどう違うのか?

1. 腐敗と発酵

食品を放置しておくと、タンパク質や炭水化物などの成分が微生物の作用で分解され、次第に外観やにおい、味などが変化し、最後には食べられなくなってしまう。このような現象を腐敗と呼んでいる。魚や肉で、タンパク質やアミノ酸などが分解され、硫化水素やアンモニアのような腐敗臭を生成する場合が代表的な腐敗の例である。

一方、発酵も食品成分が微生物の働きによって次第に分解していく現象である。こちらは、ヨーグルトや酒のように、糖類が分解されて乳酸やアルコールなどが生成されるような場合が分かりやすい。

しかし、タンパク質やアミノ酸が分解される場合が腐敗で、糖類が分解される場合が発酵かというと、そうではない。腐敗はタンパク質を多く含む食品で顕著であるが、それだけでなく、米飯や野菜、果実類などでもふつうにみられる。また原料が同じでも、蒸した大豆に枯草菌を生やして納豆が作られる場合には発酵とよばれるが、煮豆を放っておいて枯草菌が生え、ネトやアンモニア臭がしたときは腐敗と呼ばれる。

また、代謝産物の違いで腐敗と発酵が区別されるのかというとそういうわけでもない。牛乳に乳酸が蓄積して凝固したものはある時は腐敗と呼ばれ、ある時は発酵と呼ばれる。

それでは特定の菌群の違いによって区別されるのかというとそうでもない。同じ乳酸菌でもヨーグルトや味噌が作られる場合は発酵であるが、これが清酒中で増殖する場合は火落ちといって腐敗を意味する。また乳酸菌は包装ハムではネトや膨張の原因となるので、この場合には腐敗菌ということになる。

腐敗と発酵の区別は、食品や微生物の種類、生成物の違いによるのではなく、人の価値観に基づいて、微生物作用のうち人間生活に有用な場合を発酵、有害な場合を腐敗と呼んでいるのである。したがって、臭いの強い「くさや」や「ふなずし」なども、微生物の有用性が認められるのであれば発酵食品と呼ぶことができる。納豆はそれが好きな人にとっては発酵食品であるが、嫌いな外国人にとっては腐敗品に過ぎないということになる。

2. 腐敗と食中毒

腐敗は食品に微生物が増殖した結果、食品本来の色や味、香りなどが損なわれ食べられなくなる現象で、微生物の種類がとくに限定されるわけではない。食品の成分や微生物の種類によって一様ではないが、このような変化が現れるためには普通は食品1g当たり107~108程度の菌数が必要である。一般に腐敗した食品を食べても下痢、嘔吐など特定の症状はみられない。

これに対して、食中毒は食品衛生上問題となる特定の病原微生物が食品中で増殖、または毒素を生産し、それを食べた人にその微生物特有の症状をおこすもので、食品は外見上、著しい変化を伴わないことが多いので、臭いや見かけで判断することは難しい。従って、食品自体はまだ十分可食の状態にあるため、病原微生物が増殖していることに気づかずに食べてしまい食中毒になることがある。

国内では現在、ウイルスや原虫を含めて20数種類の微生物(表)が食中毒微生物として食品衛生法の対象とされている。

(細菌食中毒と細菌感染症)

従来、細菌性食中毒と細菌感染症は発症菌量の大小、および感染経路の違い(喫食による経口感染によるか、宿主間の伝播によるか)に基づき区別されていた。しかしながら、細菌性食中毒の中にも発症菌量が少ないものや感染性を有するものがあり、また細菌感染症の中でも赤痢、コレラ、チフスおよびパラチフスの発症機構は主に食品や水の媒介であることが明らかとなったことから、現在では両者を学問的に区別する意味はなくなっている。そのため、1999年に施行された「感染症予防新法」では、上記4菌種について、飲食物を経由してヒトに腸管感染症を引き起こした場合には食中毒菌として取り扱われることとなった。

【表】 日本国内で指定されている食中毒微生物(ウイルス・原虫を含む)
【表】 日本国内で指定されている食中毒微生物(ウイルス・原虫を含む)
藤井 建夫 特任教授

藤井 建夫(ふじいたてお)特任教授

東京家政大学家政学部特任教授
(東京海洋大学名誉教授)
研究分野:食品微生物学(食品衛生、発酵食品の微生物学)
代表著書:微生物制御の基礎知識(中央法規出版)、魚の発酵食品(成山堂書店)、塩辛・くさや・かつお節(恒星社厚生閣)、食品加工と微生物(中央法規出版)、食品衛生学第二版(恒星社厚生閣)、食品の保全と微生物(幸書房)など。

食品微生物講座

ページTOP