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衛生微生物講座
麻布大学生命・環境科学部
古畑 勝則 准教授

第2回 水道水中のメチロバクテリウム

 前回は水道水中にどの程度、貧栄養細菌が生息しているかについてお話ししました。今回は水道水中に存在する貧栄養細菌、その中でもメチロバクテリウムの特性についてお話ししたいと思います。
 貧栄養細菌は栄養豊富な培地ではその増殖が抑制されることが知られております。したがって一般的には血液寒天などの培地にはあまり発育せず、PGY寒天培地やR2A寒天培地では良好に増殖し、ある種の貧栄養細菌においては寒天のみでもコロニーを形成することが確認されております。貧栄養細菌の至適増殖温度は25〜30℃である場合が多いのですが、水道水中の貧栄養細菌を検出する際の培養温度は、より通常の生育環境に近い温度に合わせるために、20〜28℃がよく用いられます。このときの世代時間はおよそ5時間前後と推定され、肉眼でコロニーを確認できるまで増殖するには最低3〜5日を要します。水道水の検査では、できるだけ多くの貧栄養細菌を検出できるように5〜7日間の培養時間が設定されております。

【図1】水道水中の貧栄養細菌(R2A寒天培地、25℃、7日間混釈培養)
【図1】水道水中の貧栄養細菌(R2A寒天培地、25℃、7日間混釈培養)



 上述のような栄養の乏しい培地で、水道水を低温かつ長時間培養すると、様々な非水溶性色素を産生する貧栄養細菌のコロニーが多数検出されます(図1)。その中でも直径1mm前後のピンク色を呈するコロニーは、今回お話しするメチロバクテリウムという貧栄養細菌である可能性が非常に高いです。メチロバクテリウムは学名をMethylobacteriumといい、この属は22種が報告されております(2006年11月現在)。塩素消毒された水道水からメチロバクテリウムは高頻度に分離され、その分離率は60〜80%にのぼります。現在、この属においては生理生化学的性状試験により種を同定することは困難であり、遺伝子工学的手法、すなわち、遺伝子の塩基配列を基にした同定検査を行うことが不可欠です。


【表1】全国各地の病院内水道水から分離されたメチロバクテリウム

【表1】全国各地の病院内水道水から分離されたメチロバクテリウム


 ここで、全国各地の病院内の水道水に生息するメチロバクテリウムを調査した一例をご紹介します。分離された菌株を16S rDNAの部分塩基配列に基づいて同定したところ、M. aquaticumおよびM. fujisawaenseが最も多く、その他にM. mesophilicum, M. radiotolerans, M. aminovoransおよびM. hispanicum などもいることが明らかとなりました(表1)。
 これらの分離株には増殖に関して二つの大きな特徴がありました。その一つは増殖速度が非常に遅いことです。1回の細胞分裂が起こるのに要する時間である世代時間を測定したところ、3.9〜6.4時間で、平均5.4時間でした。大腸菌の世代時間は15〜20分といわれていることから、メチロバクテリウムの世代時間は非常に長く、増殖速度が遅いことがわかります。もう一つの特徴は、水道水のようなほとんど有機物を含有しない水中においても良好に増殖できることです。このことが貧栄養細菌と呼ばれる所以です。滅菌水道水に2.6×102 CFU/mLのメチロバクテリウムを接種したところ、菌数は徐々に増加し、培養4日後には3.5×105 CFU/mLに達しました。さらに、これを室温に放置して菌数の減少を経日的に調べた結果、250日経過しても菌数が大きく減少することはなく、ほぼ1.0×105 CFU/mLで推移しました。これは同一の細胞が長期間生残したことを意味するものではなく、あくまでも増殖と死滅のバランスを反映しているに過ぎません。

 一方、残留塩素が検出される水道水からメチロバクテリウムが高頻度に分離されたことから、塩素に対する抵抗性を調査しました。水道法で定められている最下限の残留塩素濃度、すなわち0.1 mg/Lの水道水に5.4×105 CFU/mLのメチロバクテリウムを接種した場合、30分経過後でも1.3×105 CFU/mL生残しており、この時の死滅率はわずか75.9%にすぎませんでした。さらに1.0 mg/Lの高濃度では、1分経過後では6.8×101 CFU/mLに減少しましたが、100%殺菌されるには10分間の接触時間を必要としました。このようにメチロバクテリウムは塩素に対して強い抵抗性を示すことが実験的にも確認されました。
 以上のような特徴を有するメチロバクテリウムは、健康なヒトに対して強い病原性を示すような細菌ではなく、通常は非病原性菌あるいは平素無害菌と称される細菌群に属します。しかしながら、乳幼児や高齢者、あるいは免疫機能が低下して抵抗力のないヒトなど、いわゆる易感染者が本菌に感染すると、基礎疾患が悪化したり、これに付随する様々な疾病が生じたりすることもあります。しかし、こうした病気になりやすいヒトが多量の本菌を体内に入れない限り、メチロバクテリウムが原因で病気になることはまずありません。さて、次回はこうした貧栄養細菌の水中での棲みかについて考えてみたいと思います。

参考文献: K. Furuhata, Y. Kato, K. Goto, M. Hara, S. Yoshida and M. Fukuyama Isolation and identification of Methylobacterium species from the tap water in hospitals in Japan and their antibiotic susceptibility. Microbiol. Immunol., 50, 11-17 (2006)




古畑 勝則 准教授 古畑 勝則(ふるはたかつのり) 准教授
麻布大学生命・環境科学部
微生物学研究室

学位:博士(獣医学)
研究分野:環境微生物学、微生物生態学
代表著書:バイオフィルム(サイエンスフォーラム)、水ハンドブック(丸善)、
食品のストレス環境と微生物(サイエンスフォーラム)など
麻布大学のホームページ


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第1回 水道水中の貧栄養細菌

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